個人事業主の事業承継を支える 「個人版事業承継税制」とは?|不動産相続の相談窓口|株式会社マトリックストラスト
2019年度税制改正で創設された「個人版事業承継税制」をご存じでしょうか。
従来、事業承継に関する税制優遇の対象は法人の株式(いわゆる自社株)に限られていましたが、この制度により個人事業主にも対象が大きく広がりました。
さらに2026年度(令和8年度)税制改正では、制度活用の前提となる「個人事業承継計画」の提出期限が、従来の2026年3月31日から2028年9月30日まで2年6か月延長されました。承継を検討する個人事業主の方にとって、あらためて活用を検討する好機です。
❏ 個人版事業承継税制とは
個人版事業承継税制とは、平たく言うと「相続税・贈与税の納税猶予制度」です。この制度を活用することで、個人事業主の事業用資産について、相続時・生前贈与時のいずれも、その課税価格に対応する相続税・贈与税の納税について全額の猶予を受けることができます。歯科医院や士業、飲食店、小売業、農業など、中小事業の担い手の多くは個人事業主です。従来は個人事業主向けの税制優遇がほとんどなく、承継時に重い税負担を強いられ、最悪の場合は廃業を選択せざるを得ないケースもありました。この状況を改善するために創設されたのが本制度です。

❏ 個人版事業承継税制の特徴
• 承継時の納税負担が実質ゼロに(納税猶予)
本制度を活用すると、事業承継に係る部分の相続税・贈与税の納税が全額猶予され、承継時の納税負担は実質的にゼロになります。
ただし、原則はあくまで納税の「猶予」です。一方で、後継者の死亡など一定の事由に該当した場合には、猶予税額が免除される仕組みも設けられています。
• 納税猶予の対象資産
対象となるのは、青色申告書の貸借対照表に計上されている事業用資産(特定事業用資産)です。具体的には以下のとおりです。
・宅地等(400㎡まで)
・建物(床面積800㎡まで)
・機械・器具備品(工作機械やパワーショベル、冷蔵庫や診療機器など)
・車両・運搬具
・生物(乳牛、果樹など)
・無形固定資産(特許権など)
• 相続税だけでなく贈与税も対象
法人版の事業承継税制と同様に、相続税・贈与税のいずれも納税猶予の対象となります。
❏ 注意点
• 年齢や期限などの要件を満たす必要がある
• 年齢:贈与税については、受贈者が贈与の日において18歳以上であることが必要です。
• 対象期間:2019年1月1日から2028年12月31日までの相続・贈与が対象です。この適用期限自体は延長されていない点にご注意ください。
• 担保の提供:猶予される税額および利子税の額に見合う担保の提供が必要です。
このほか、贈与税の納税猶予については、受贈者の事業従事(3年以上)や事業用資産の保有など、他の要件も満たす必要があります。
• 事前の計画提出・確認と、承継後の認定が必要
本制度を活用するには、まず2028年9月30日までに「個人事業承継計画」を都道府県(知事)に提出し、確認を受ける必要があります。
そのうえで、実際に贈与・相続を行った後、経営承継円滑化法に基づく認定を都道府県に申請します。さらに、承継後も3年ごとに「継続届出書」を所轄の税務署へ提出する必要があります。
• 小規模宅地等の特例との選択適用
個人事業主の事業承継で従来から活用されてきた税制に「小規模宅地等の特例」があります。事業用の宅地であれば、400㎡まで相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
個人版事業承継税制の適用を受ける場合、この特例のうち特定事業用宅地等については併用できません(その他の宅地に係る特例は限度面積の調整があります)。どちらが有利かは資産構成によって異なるため、事前の比較検討が不可欠です。
• 事業を廃止した場合は利子税とともに全額納付
本制度はあくまで納税の猶予です。対象資産に係る事業を廃止した場合には、原則として猶予税額を利子税とあわせて納付しなければなりません(破産手続開始の決定など、やむを得ない事由による場合の例外はあります)。

❏ まとめ
個人版事業承継税制はメリットの大きい制度である一方、満たすべき要件が細かく、小規模宅地等の特例との有利判定も必要です。
計画の提出期限は2028年9月30日まで延長されましたが、確認・認定の手続きや要件整備には時間がかかります。承継をお考えの方は、早めに税理士等の専門家へご相談ください。


